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本著は,学習院マネジメント・スクールにお ける「未来店舗開発研究会」の取り組みの成果 である。「希望」という新しい概念を通して小 売における消費を捉えることで,伝統的なマー ケティングを再構成する,という斬新な内容と なっている。希望学とマーケティングとは,不 確定な願望やニーズを探索し実現する方法とい う次元で実に深くつながっていることに気が付 かされ,本著の問題意識の射程の広さに目が啓 かれる。 本著の骨格は,3本柱で構成されている。 まず,第一に,「希望」という概念から,消 費を捉えなおすという基本方針である。経済成 長期には経済成長自体に希望があるが,しかし, 停滞期でも希望がなくなるわけではない。むし ろ,その中でこそ重要さが認識される。著者 は,マーケティングが伝統的に主張してきた本 質ニーズの議論に新しい光を当て,そこに足掛 かりを求めていく。 第二の柱は,企業にとっての実践的側面とし て「希望」を捉えるという方針である。具体的 な希望を生み出す要素を「希望ジェネレータ」 として捉える。企業は,希望ジェネレータを刺 激することで,購買動機を作ることができるた め重要な役割を任う。生活者の現実の生活場面 に即して把握するための抽出手法として,マー ケティング・リサーチの手法が総合的に用いら れ,インサイトを具体的な店舗戦略へ落とし込 む一連の手法を提示している。 第三の柱として,企業の中でも特に小売業に 特有の「希望」創出へのアプローチとして「商 圏マネジメント」という実施の方針を掲げる。 「商圏マネジメント」とは著者の造語であり, 単に店舗のみを通しての顧客対応ではなく,顧 客の生活圏を踏まえた商圏を小売業の経営の対 象とすることである。顧客自身が希望を活性化 できるようなコミュニティを支援し,結果とし てロイヤル顧客を増やし,かつ需要を拡大する ことができる。 著者は,この3つの領域を,実践的に連動す ることに小売業の未来を見出し, 「希望学」(第一の柱,いまだ不確定なニー ズへの働きかけ) 「ライフステージ」(第二の柱,具体的な希 望の対象の抽出) 「商圏マネジメント」(第三の柱,希望が具 現化する社会的プロセスの設計) という分析と実践の枠組みを提示している(順 序は変更)。 本書は,9章からなる。 序章では,高度成長期以来の社会構造と需要 について論じていく。20世紀の小売業が合理 化を推進したために切り捨ててきたヒューマ ン・ハイタッチ部分の価値が高くなり,顧客と のインターフェース部分に関して,EDLPから EDHQ(Every day High Quality)への転換が 生活者視点で変わる小売業の未来 ─希望が買う気を呼び起こす商圏マネジメントの重要性 ─

上田 隆穂（2016） 生活者視点で変わる小売業の未来

上田隆穂（2016）生活者視点で変わる小売業の未来