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野火的活動 上野 直樹 80年代以降,活動論や状況論が世界的にひろがり 始めてから,すでに,30年近く経過している。状況 論研究は,認知や学習,発達,アイデンティティ形成 といったことを,個人的な営み,知識,技術の獲得と いうことを超えて,活動やコミュニティ,人工物,メ ディアといったことを含めて統一的にとらえる観点を 提供した。そして,状況論は,学校,企業,家庭など の特定のコミュニティやそこでの活動,実践に焦点を 当て,学習や生活のあり方,人々の相互関係や人工物 の役割を理解しようとしてきた。 しかし,80年代以降,私たちを取り巻く時代状況 は大きく変化している。一つの大きな時代的変化は, web,モバイルを中心にした新しいソーシャルメディ アの開発や使用のひろがりであり,もう一つは,これ に関連しているが,活動,実践の多様化および流動化 である。 こうした現代の状況は,Engestromの言葉を借り るなら,野火的な活動(wildfire activities)が拡大して いる時代ということが可能である。野火的な活動とは, 分散的でローカルな活動やコミュニティが,野火のよ うに,同時に至る所に形成され,ひろがり,相互につ ながっていくといった現象をさしている。野火的な活 動は,インターネットで象徴的に生じているが,それ 以前にも様々な事例がある。たとえば,スケートボー ディング,グラフィティ,地域における市民活動,震 災時の市民による連携活動などである。 こうした現代社会における野火的な活動のひろがり は,状況論に対して解明,解決すべき研究的,実践的 課題をつきつけている。そして,改めて,境界横断論, 多様なコミュニティを移動する軌跡の研究, Granovetterによる弱い紐帯,Engestromによる knotworkingの議論,研究が着目される。しかし, 弱い紐帯,knotworkingといった概念は,野火的な 活動の結果を記述しているにすぎない。これに対して, 野火的な活動へのもう一つのアプローチの方法は,こ うしたものを生み出すオブジェクトの構造に焦点を当 てることである。 ここでは,オブジェクトに焦点を当てながらオープ ンソース運動の歴史を振り返ることで,野火的な活動 がどのように形成されるのかを見ていく。オープン ソースとは,ソースコードを公開,改変,再配布する ことを可能にするソフトウェアのライセンスをさす。 オープンソースは,ハッカーたちが長年行ってきた野 火的な活動と強く結びついている。オープンソース運 動では,システムを,自分たちで新たなものを付け加 え,メンテナンスし,用いる公共物のように位置づけ た。そのために,オープンソースでは,様々なコン ポーネントが公開され,それらのコンポーネントはエ コシステムを形成している。このエコシステムは,シ ステムの開発や運用のあり方を大きく再構成した。こ のようにして,オープンソースは,90年代以降イン ターネットの中心的なインフラになり様々な相互に関 係を持つエージェントや活動を可能にする舞台や舞台 装置を提供した。当日には,こうした事例を具体的に 見ていくことを通して,野火的活動を見たり,構築す るための観点を整理する。

Wildfire Activities : Learning Mediated Through Mobilities With Local Activities