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病原細菌の同定や種内での細分類を行う方法として, 菌体表層に発現する糖鎖やタンパク質などの構造的多様 性を標的とした免疫学的な分類法,いわゆる“血清型別 法”が古くから用いられている.本総説で取り上げる大 腸菌 (Escherichia coli)では,O抗原と呼ばれる菌体抗原 とH抗原と呼ばれるべん毛抗原を標的とした血清型別 が一般的に用いられている.現在,O血清群(O群,O serogroup)はO1からO188まで,H型 (H type)はH1か らH56までが定められており,O群とH型の組み合わせ によって表される血清型 (serotype)は計算上1万通り近 くとなり,十分な細分類解像度があると言える.分離株 間の血清型が同じであれば,それらは短い期間内に単一 細胞から分裂した派生株であるか,あるいはごく近縁な 系統関係にある同族株であると予想できる.病原大腸菌 による感染事例が発生した場合,原因と疑われる分離株 に対して病原因子の特定と併せて血清型別が行われる. さらに他の患者や食品などから分離された菌株と血清型 が一致すれば,感染範囲や汚染源を特定するための有用 な情報となる.また国や地域レベルで長期的に血清型の 情報を集めて解析すれば,流行タイプが明らかとなる. 以上のように,大腸菌の血清型別は疫学的な研究や調査 には欠かせないツールの一つとなっているが,抗原の準 備に時間がかかることや,広域な血清型を対象とした判 定には高価な抗血清が必要となることなどが課題に挙げ られる.また,既存抗血清では判定できない菌株による 事例も発生しており,今後それらに対してどのように対 応していくべきか考えていかなければならない. 大腸菌の検査や疫学的な研究に携わる者にとって「血 清型」は身近な言葉であるが,その標的である糖鎖やそ れをコードした遺伝子については,あまり馴染みがない かもしれない.今回は本誌で総説を執筆させていただく 機会を得たので,大腸菌の「O血清群」について概説す るとともに,その免疫学的な認識部位である「O抗原」 と,その抗原合成を司る「O抗原合成遺伝子」にも注目 しながら(図1),それぞれの特徴と関係についてこれ までの知見をまとめてみたい.さらにO群を判定する 遺伝学的な手法の可能性と課題について,われわれが取 り組んできた研究の成果を踏まえながら考察したい.

Serogroup, structure and gene cluster of the <i>Escherichia coli</i> O-antigen