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食品の安全性や健康への意識が高まるにつれ,カビ発 生や異物混入など,カビによるトラブルが増加してい る.カビは複数の製品に発生するおそれがあり,最近は 食品にカビが発生した事故で製品回収へ発展する事例も 少なくない.カビ問題が企業に与える影響も年々大きく なってきており,その損害は多大なものと推測される. 製造した食品にカビクレームなどの問題が発生した場 合,その対策を講じるにも「どこの場所」を「どのよう な方法」で行うかは,発育したカビの特性や食品の種 類,製造環境・工程の状況などにより大きく異なってく る.そのため,カビによる重大な問題が発生した際は, 適切に原因究明しておくことが極めて重要で,問題への 是正措置や再発防止策を組み立てるうえでも必要不可欠 な取り組みとなる.そこで,カビによる問題が発生した 際に必要な製造現場での原因究明や対策のポイントにつ いて紹介する. 1. 食品におけるカビクレームの実態 食品はカビにとって生育に適した基質となるため,し ばしばカビが発生して問題を引き起こす.カビは細菌と は異なり,発育すると肉眼で確認できることが多く,製 品として流通した後に消費者から「カビの発生」として 申し出を受けることがほとんどである.その申し出の事 例としては,食品表面にカビが発生して問題となるケー スが大半を占めるが,飲料など液状の食品ではカビが膜 や綿状の塊として浮遊しているような事例も多い.その ほかにも,カビ自体の色調や産生される色素により,食 品が変色する事例,異臭(カビ臭)や膨張を伴う事例な ど,さまざまな現象を引き起こす.また,カビは菌糸体 として発育すると,形状が崩れにくくなるため,製造環 境やラインで発生したカビの塊が,食品に「異物」とし て混入するケースが多いこともカビクレームの特徴とい える. 一方で,カビクレームが発生しやすい食品の種類にも 傾向が見られる.水分が比較的少ない食品(水分活性が 低いもの)や比較的保存性が高い食品(消費までの期間 が長いもの),農産物を原料とする食品に多い傾向があ り,主な種類としてパン・菓子類,農産物・農産加工 品,乳製品,飲料などでカビクレームが発生しやすい (図1). 2. 対策に必要なカビの知識 食品や製造現場で発生しているカビは,肉眼で見える 程度に増殖し,集落を形成したカビの姿である.カビは 増殖しなければ大きな問題は起こさないため,カビの増 殖における生活環や条件を理解しておくことは,カビ対 策を講じるうえで極めて重要な知識となる.また,カビ が製品を汚染する経路についても細菌と異なる点がみら れ,汚染源を特定するために必要な情報となる. 2.1 カビの生活環 カビの増殖は,まず胞子が食品や壁など基質になるも のに付着することから始まる.付着した胞子は増殖に適 した条件になると菌糸を発芽し,基質の中に栄養菌糸を 伸ばす.栄養菌糸は基質の内部から栄養分を吸収し,分 岐しながら盛んに伸長して菌糸体を形成する.さらに, 栄養菌糸から胞子を作るための生殖菌糸を直立し,大量 の胞子を産生する(図2).一般的にはこの状態になる と「カビ発生」として肉眼で認識できるようになり,産 生された大量の胞子が風の流れなどに乗って,新たな場 所へ広範囲に拡散する危険な状況に陥る.カビの生育速 度は細菌と比べて遅く,新たに胞子を形成するまでに 4~7日程度かけてゆっくり増殖するため,食品を汚染 したカビが製造中に短時間で増殖するようなことはほと んどない.また,一度環境中に放出されたカビの胞子 日本食品微生物学会雑誌 Jpn. J. Food Microbiol., 31(1), 13‒19, 2014

Cause Investigation and Measures of the Mold Contamination in the Food Production Site