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『東洞全集』には,吉益東洞の没後に息子達によっ て記された伝記『東洞先生行状』が収載されている。 この中に宝暦2(1752)年に東洞が盛岡の南部候を 往診したことが記されている。 ところが,南部候の病状の詳細や用いた方剤につ いてはこれまで全く不明であった。筆者らは南部候 と東洞の関係がどの様なものであったかについて調 査を進める中で,幸にも盛岡藩家老席日記『雑書』 の中に,この疑問を解き明かす記述のあることを見 いだした。東洞の臨床治験については『建殊録』等 に記されているが,この『雑書』の記述は東洞の臨 床の実際について窺い知ることのできる貴重なもの と考えた。そこで,本稿では『東洞先生行状』を参 考としつつ,『雑書』に記されたあらたな知見につ いて紹介し,検討を試みる。 1.対象と方法 1)『東洞全集』に収められている『東洞先生行 状』の南部候往診の部分を検討の対象とした。 2)盛岡藩家老席日記『雑書』は,家老席の書記 にあたる藩士が家老の政務日記として記したもので, 盛岡南部藩の代表的な公的記録である。家老職の責 務は藩の政務全般に及んでいたので,この日記には 家老席での協議・決定事項,代官所など下部機関か らの報告,家老職の日常的処理事項が主に記されて いる。原本は寛永から天保までの197年間の記録で ある。盛岡市教育委員会・盛岡市中央公民館が刊行 した『雑書』は毛筆で記された原文を解読し活字化 した刊本である。 本研究では,この活字本『雑書』の第22巻(寛延 吉益東洞の南部侯往診についての新史料 寺澤 捷年a 板澤 正明b

A New Historical Material on the Visitation to Lord Nambu by Dr Yoshimasu Todo