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58歳,男性。特記すべき既往歴なし。全身麻酔下に 甲状腺全摘出術が行われた。腫瘍が大きく剥離中に気 管膜様部の一部が菲薄化しpinhole状の穿孔を来した が,タココンブ®(CSLベーリング)にて閉鎖でき術中 の陽圧換気は問題なかった。食道も同レベルの部位が 菲薄化し胸鎖乳突筋にて覆うように閉鎖された。 さらに,甲状腺右葉を処理する際に右反回神経が切 断された。左側は温存できたが神経刺激装置で反応が なく,両側反回神経麻痺では抜管困難であるため,急 遽気管皮膚瘻が作成され手術終了となった。 麻酔覚醒前にテーパーガードTM気管チューブ(コ ヴィディエン ジャパン)からアスパーエースTM(コ ヴィディエン ジャパン)に入れ替えたところ,1回の 陽圧換気の直後に皮下気腫を生じた。先のpinhole状 の穿孔部からの再穿孔を第一に疑ったが,それは気切 孔から3横指ほど尾側にあったため直視的に確認でき なかった。その間酸素化は低下し一刻も早く換気すべ き状態だったため,直ちに長さのあるアジャスト フィット®(富士システムズ)を気切孔から入れ替え, 執刀医の記憶を参考にカフがその穿孔部を超えるよう に盲目的に留置したところ,陽圧換気は可能となった。 酸素化が改善した後に気管支鏡で確認すると,チュー ブより末梢側に明らかな損傷はなく,チューブは気管 分岐部直上に位置していた。 術中,気管穿孔部は後面に支持する組織がないため 縫合形成はできず,組織を充填したのみだったため, 気管チューブに伴う摩擦で容易に再穿孔を来し換気不 能に陥る可能性が十分考えられた。術後は保存的加療 を余儀なくされ,組織修復を待つ間は深鎮静で管理す る方針となった。 常に再穿孔の危険性があったため,人工心肺などの 補助装置をスタンバイし治療を行った。

The case recovered from tracheal injury by deep sedation and intensive care