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私たち人間は世界を主体的に認識している.我々は, 複数の感覚器官を通して,異なる種類の情報を取得し, それらの情報を統合することによって世界を認識して いる.このような異種感覚情報の時間的な統合に関し て時間順序判断課題を行わせた場合,物理的な同時点 と主観的な同時点とでずれが生じることが知られてい る.そして近年,主体が運動を行うことが当該主体の 時間知覚(主観的な同時点の判断)に影響を及ぼすこと が明らかになってきた.特に,主体の随意運動が 時間知覚に影響を及ぼすことが確かめられている. このことは,我々人間が外界と接触する際には,主体 的に運動することが認識のフレームを決定しているこ とを意味する. このような現象は,人間を含め生物における主体的 行為と知覚との関係,そして,これに基づく認識のロ バスト性の問題について考える上で非常に重要であり, また工学的にもロボットやマンマシンインタフェース を構築する上で示唆に富むものである.それゆえ, 脳科学を含め様々な自然科学の観点から生物における 主体的行為と知覚との関係を明らかにすることが求め られている.現在,認知行動科学や心理学に基づく現 ∗〒 226–8502 横浜市緑区長津田町 4259 象論的なアプローチに加えて,脳科学に基づく基礎的 なアプローチの研究も始まっている.しかし,これら 2つのアプローチの間にある壁は厚く,意思疎通を図 ることが容易ではないことが予想される.そこで,こ の 2つを繋ぐ接点として,アルゴリズムベースの研究 が必要となるであろう.その際問題となるのは,主 観を数理的にどのように扱うのかということである. そこで本稿では,ショウジョウバエの頭尾軸形成に おける遺伝子発現のロバスト性の現象を例に取 り,この現象を説明するために我々が提唱した数理モ デルを用いて,生物システムを構成する要素の主観 をモデル化する方法,特に,生物システムにおける主 体的行為と知覚との関係と,それに基づく認識のロバ スト性をモデル化する方法について解説する.

Robustness for Recognition in Living Organisms from a Mathematical Viewpoint