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1.1 研究背景 大工技術書のひとつである所謂「木割書」は、建物の部分や全体 の比例や大きさを決めるシステムである木割が記された文書と して知られている。実際に、「柱太サ壱寸壱分算」(『匠明 門記集』「四 脚門之図」)や、「柱ノ勢間一尺ニ一寸五分のけつけつノ柱ヲ立へき 也」(『木砕之注文』「日本様ノ木之勢之事」)等といった数字を 用いた比例的な表現によって各部寸法を規定していく内容が、木割 書の骨格であろう。更に本稿では、そうした木割書と呼ばれている 資料の多くは、比例的な表現以外にも部材の位置や形、さらには様 式や感覚的な表現等の記述も含まれた文書である点にも着目する。 そうした木割書は、伝統的な建築物の設計方法や思想を現代に伝 える資料として十分な価値を有していると思われるが、一方でどの ような場面で用いられたり、あるいは参考にされたのかが明白では ない資料でもある。そのため、時には、木割書と同時代の建築 文化全体や社会背景との関係が捉え難い側面もあるだろう。 そこで本稿では、上述の問題意識のもと、木割書の用途の一端を 明らかにするために、木割書と図面の比較研究を行う。建築の生産 工程の全容が明らかではないこともあり、これまで、実際の建築物 と木割書を直接比較しても、木割書の用途に言及することは難し かったが、図面は木割書と同様に、実際に建てられる建築物とは一 定の距離を持つ抽象的なものであると共に、計画上のある種の意図 や理想像でもあり、両者は相互比較がしやすい。また、先行研究に は、図面作成を前提とした寸法規定をしているとの結論を得た木割 書の分析もあり、本稿では、その視点を踏襲し、木割書だけで なく図面も含めた分析を進めていく。木割書を用いて図面を描いた 可能性や、木割書が図面と一緒に参照する資料である可能性等も想 定され、木割書と図面の比較研究は、木割書の役割についての議論 を前進させることができると考えている。 1.2 研究目的 木割書と図面を比較するにあたって両者の対応関係を見るため に、建物種別が同一なだけでなく、木割書の筆者自身が描いた図面 を扱うことが望ましいだろう。そうした条件を満たした資料が収録 されている大工文書は少ないが、大徳寺大工・林家が記した資料の 中にはいくつか現存しているので、今回は一例として林家の旧蔵資 料を研究対象とする。 従って本稿では、上記の研究背景のもとで、具体的には大徳寺大 工・林家が記した木割書の記述と、その林家自身が描いた図面の概 要報告も兼ねて、両者の照合関係を明らかにすることを目的とする。

A COMPARATIVE STUDY OF DESCRIPTIONS AND DRAWINGS IN DOCUMENTS FROM THE LIBRARY OF THE HAYASHI FAMILY