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血友病は凝固因子の遺伝子異常により,血中凝固 因子活性レベルが低下し,出血傾向をきたす遺伝性 の疾患である.また血友病は伴性劣性遺伝の疾患で あるため,主に男性に発症する.血液凝固第 VIII 因子(FVIII)の異常が血友病 A,第 IX因子の異常が 血友病 Bとして知られ,国内には 5000例から 1 万例程度の血友病患者が存在すると考えられてい る.現在,血友病に対する治療は,欠乏する凝固因 子製剤の補充療法が一般的であるが,凝固因子製剤 の半減期は短いため,頻回の投与を必要とし,製剤 コストが膨大になるだけでなく,患者への大きな負 担となるのが現状である.この問題を解決するため に,長期作用型の製剤が開発され,有用な成果も報 告されてきた.もう一つの解決法として,根本的 治療を目指した遺伝子細胞治療の応用が挙げられ る.血友病に対する遺伝子細胞治療の目標は,一度 の治療介入(処置)によって,患者の不慮の出血・出 血合併症を長期にわたり減じ,かつ,患者の QOL を改善することにある. 現行の血友病に対する遺伝子治療は,遺伝子異常 を正常化させることではなく,対象となる正常遺伝 子を体内で過剰発現させる手法を用いるのが一般的 である.古くから血友病は遺伝子治療の良い対象疾 患として考えられてきた.その理由として,低レベ ルの凝固因子発現でも治療効果が得られること,治 療域に厳密な発現調節が不要であることが挙げられ る.また,単一の遺伝子異常による疾患であり,各 種動物モデルの存在により治療開発が容易な点も, 遺伝子治療臨床応用が捷径と考えられてきた理由で ある. 血友病に対する遺伝子治療法には大きく分けて 2 つのアプローチがある.1つは,治療遺伝子の運び 屋であるベクターを直接患者に投与する手法であ り,もう 1つは,目的の治療因子である凝固因子を 高発現する細胞を患者に移植する,いわゆる細胞治 療とも呼ばれる手法である.すでに 10年程前から, 血友病患者を対象とした遺伝子細胞治療の臨床試験 は行われており,血友病 Aに対しては,凝固因子 を過剰発現させた線維芽細胞を腹腔の大網に移植す る手法やレトロウイルスベクターを直接投与する 手法などが行われた.血友病 Bに対しては,アデ ノ随伴ウイルスベクター(AAVベクター)の筋注, 肝動脈投与が行われた.しかし,遺伝子治療の良 い対象疾患とされながらも,血友病に対する遺伝子 細胞治療臨床試験は,一過性の治療効果は得たもの の成功には至らなかった. その後,ベクターの改良,プロモーターの改良, 最適な標的臓器や細胞の選択,投与手法の改良が精 力的に進められ,ついに血友病 Bに対する成功例が 報告された.この成功例は,AAVベクターを用い たベクター直接投与法によるもので,肝臓への遺伝 子導入指向性を持つ AAV8型ベクターを利用してい る.AAVベクターには様々な血清型が知られ AAV8 は一回の静脈投与で肝臓への高い遺伝子導入が可能 となる.重症血友病 B患者に FIXを高発現する 血友病性関節症に対する遺伝子細胞治療の基礎的検討 柏倉裕志

Development of cell-based therapy for hemophilic arthropathy