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我が国に稲 作が渡来 したのは約2000年 前 といわれてい るが,熱 帯原産 のイネが 北上を続 けて温帯北限の北海 道 に定着す るまでには,幾 度 もの冷害 に遭遇 した こと と思 われ る。 東北地方 では江戸時代初期 から明治中期までの 300年 間におよそ3年 に1度 の割合で,そ の後 の60年 間 には4年 に1度 の割合で冷害が発生 した。1955年 以後 は久 しく冷害 がな かったが1976年 には22年 ぶりに 冷害 が発生 し,「 災害 は忘れた頃 にや って くる」 とい う諺 を 思 い出 させた。北海道の稲作の歴史は まだ100年 た らず であるが,こ の間に24回 の冷害が発生 し(表2),平 均 して4年 に1度 の割合 になって いる。 第2次 大戦後 に開発普及 されたイネの早期 栽培 と晩期 栽培 は米 の増産 に大 き く寄与 したが,反 面,慣 行栽培 よ りも気温 の低 い時期 にイネを生育 させ ることによ り,関 東 以西 の暖地 における冷害 の誘因にもなった(佐藤,1967)。 こうして今 日で は,被 害程度 に差 こそあれ,北 海道 か ら 九 州までの 日本各地で冷害が発生 してい る(西 山,1976 -d) 。最近韓国で は印度稲 と 日本稲 とを交雑 して 「統一」 をは じめ とする超 多収稲を育成 し,こ れによって米 の 自 給 を達 成 した。 しか し新育成品種 は気温が下 ると葉 が黄 化 して 活着不良や登熟不良を起 しやすいのが欠点 であり, 作 付面積 の拡大 と共 に超多収品種の耐冷性強化が重視 さ れてい る(藤井,1976;菊 池,1973;櫛 淵,1976;太 田, 1977)。 熱帯 では長 い間モンスーンの降雨を利 用 した雨季作 だ けが行 われて いた。 そこで は感光性の品種が栽培 されて 成熟 までに長 日数を要 した が,温 度条件 が生育 の障害 に なることはなか った。 しか し1960年 代 に入 ってか ら, 非感光性 多収 品種 の育種 と貯水施設の建設 とによって乾 季作が可能 となり,1年 に2回 以上の作付 が行 われ るよ うにな った。 その結果,深 い ダムの底か ら放出され る冷 水害 が,あ るいはまた多収性の故 に適地 を越 えて山間部 や亜熱帯地域 にまで栽培面積の広が った非感光性多収品 種 に冷害が起 こるよ うにな った(Owen,1971)。 今 日で は,熱 帯 ~亜熱帯地方で稲作を行 って いる十数 ケ国で冷 害 が確認 されてお り(Kaneda・Beachell, 1974),南 お よび東南 アジアで冷害が問題にな る水田面積 は,イ ン ド, ネパ ール,パ キスタ ン,イ ン ドネシア,ビ ルマ,ベ トナ ム,フ ィ リピンでお よ そ700万haと 推 計 されて い る (IRRI, 1979; Vergara et al., 1976)。 将来,食 糧 の不足 に伴 って稲作が さらに不適 地にまで拡大 された場 合,あ るいは気象学者 らが予測 しているような地球の寒 冷化が進んだ場合には,冷 害対象面積 はさ らに拡大す る であろ う。 このよ うに してイ ネ冷害 は温帯 ・熱帯に共通 す る問題 になりつつあ り,国 際稲研究所(IRRI)は これ を重要課題 のひ とつ として耐冷性 の国際協力試験を実施 して いる(IRRI, 1979)。 冷害 の型 とその重要度は国に より,地 域に より異な るが(Kaneda・Beachell, 1974), この講座で は 日本におけ る冷害 の作 物学的機構 と対策を 解説す る。

Mechanism and Countermeasures of Cool-temperature Injury of Rice Plants in Japan