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1 はじめに ベンガラと言えば,京都の町屋のベンガラ格子に使わ れていることはよく知られている 1).また,有田焼柿右 衛門の赤絵の赤色絵具 2), 3)を思い出す方も多いのではな いだろうか.これらの赤色顔料は赤色酸化鉄である.こ の赤色酸化鉄は,狭い意味で用いられているベンガラで ある 3).実はベンガラは広い意味で使われる場合があり, 多様な酸化鉄やオキシ水酸化鉄の総称である 3), 4).広義 の酸化鉄ベンガラとして,α-Fe2O3(鉱物名:へマタイ ト,赤鉄鉱),γ-Fe2O3(同:マグへマイト,磁赤鉄鉱), Fe3O4(同:マグネタイト,磁鉄鉱)等があり,それぞ れ赤色,褐色,黒色の顔料として使われている.さらに, オキシ水酸化鉄では黄色系褐色のα-FeOOH(鉱物名: ゲーサイト,針鉄鉱)およびオレンジ系褐色のγ-FeOOH (同:レピドクロサイト)があげられる 3), 4).ところで, ベンガラの語源を調べると,17 世紀の江戸時代にオラン ダの東インド会社がインドのベンガル地方産の天然の 酸化鉄鉱物を日本に持ち込んだことに由来するとされ, Bengala と表記されている 1)―3).本稿では,赤色酸化鉄 ヘマタイトのベンガラを対象とする. 酸化鉄ベンガラは,様々な色調,安定性,安全性,低 コスト,資源豊富など多彩な特徴を持ち,多様な分野で 使われている 2)4).まず,美しい色調が挙げられ,陶磁 器,漆器,建築物や道路などを彩っている.次に高い安 定性,すなわち優れた耐環境性(酸化環境,紫外線環境, 熱環境など)を示し,建物の彩色,金属や木材の塗装の 下地などに利用されている.上記のベンガラ格子のベン ガラも,美観以外に,夏・冬の温度差や風雨などの厳し い環境から木材を保護する役目を持っている.さらに, 安全で無害であるため,食品の彩色に使われているとと もに,メークアップ化粧品(ファンデーション,口紅, アイシャドウなど)の着色顔料にも含まれている 2).ま た,酸化鉄鉱物は世界中に存在し,鉄のクラーク数は4.70 であってケイ素やアルミニウムに次いで大きく,資源と して豊富であることも大きな特徴である.加えて,低コ ストで多様な機能を持つ点から,現在も産業上極めて重 要な材料である. ここで,ベンガラを歴史的観点から眺めてみよう.ベ ンガラは,人類が最初に使った顔料のひとつである.後 期旧石器時代(約 20,000 年前)のフランスのラスコーや スペインのアルタミラの洞窟壁画では、生き生きとした 動物が描かれた 3)5).日本では,8 世紀初頭の高松塚古 墳の壁画に描かれた女人像の衣服に赤色のベンガラが 使われていることはよく知られている 6).なお,この女 人像ではベンガラ以外に赤色として朱(HgS)が帯の彩 色に使われており,飛鳥人は二種の赤色を使い分けてい たことは興味深い.しかし,これより前の縄文時代(約 9,000 年前)の土器に赤色ベンガラが使われていること はほとんど知られていない 7).縄文人が世界で初めて彩 色土器を作ったのである.筆者らは,鹿児島県立埋蔵文 化財センターと共同で縄文時代早期後葉(約 7,500 年前) の鹿児島県関山遺跡から出土したベンガラがヘマタイ トであることを実験的に明らかにした 8).また,熊本県 教育庁の協力のもとに,弥生後期(約 1900 年前)の熊 本県下扇原遺跡から出土したベンガラについて XRD, SEM, TEM, XRF などを用いて詳細なキャラクタリゼー ションを行い,その特徴を検討した 9).まず,下扇原遺 跡から出土したベンガラの一部は驚くことに非常に純 度が高く(93%),その色彩は吹屋ベンガラや現在の工 業ベンガラに近い鮮やかな赤色を示すことを見出した 9). なお,この遺跡からは古代遺跡からの出土としては非常 に希な大量のベンガラが出土している.さらに,奈良時 代にベンガラは,様々な寺社の建築物(金堂,塔,門ほ か)の天井などの文様彩色,さらには正倉院の宝物(献 物几,献物箱,伎楽面,楽器,仏像幡など)の彩色に用 いられていた 10)12).唐招提寺金堂や薬師寺東塔の天井

zairyou/zairyo

Development of Novel Reddish Iron Oxide Based on Traditional Pigment “Bengala” : Restoration of “Bitchu Fukiya Bengala” and Advancement to Biogenous Iron Oxide Bengala