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1 緒 言 ステンレス鋼などの耐食性金属材料は,全面腐食に対 しては高い耐性を示す.その反面,塩化物水溶液中では, 孔食などの局部腐食を比較的容易に生じるとの弱点があ る.また,炭素鋼などの準耐食性材料と比較し,薄肉厚 で使用されることが多い.したがって,一度,部材に局 部腐食が発生すると,短時間で貫通や破断が生じ,内部 流体が漏洩するなどの事故に至る場合が少なくない.こ のため,化学プラントなどの現場では,孔食などの局部 腐食の発生を,その誘導期あるいは進展の極初期で検出 できるモニタリング法の開発が切望されている. 塩化物水溶液中での孔食は,不働態皮膜が,塩化物イ オンと反応して,局所的に破壊されることによって生じ る.ただし,発生した食孔の大部分は,その成長の途上, 持続進展が可能な臨界サイズ(臨界食孔半径 rpit)に達 する前に再不働態化され,成長を停止する.この,非進 展性の食孔(準安定食孔)の発生から再不働態化に至る 過程で生じる局部アノード電流,あるいは同電流によっ て励起される腐食電位の振動を電気化学ノイズと呼ぶ. 筆者らは,両者のうち,測定が容易で現場へ適用し易い と考えられる,後者のノイズ(電位ノイズ)に注目し, そのモニタリング法への活用を検討してきた.2), 3) 電位ノイズ法を用いた孔食モニタリングでは,現場で 測定したノイズの波形から,プローブ電極上に生じた最 大食孔萌芽の半径 rmaxを推定する.プローブ電極には, モニタリング対象の構造物と等価な材料を用いる.rmax と rpitを比較することにより,モニタリング対象での孔 食発生の可能性を定性的に推定できる.例えば rpit >> rmaxであれば,同環境中での孔食が発生する可能性は低 い.しかし,rpitと rmaxの差が小さい場合,対象のいず れかの場所で,既に孔食が生じている可能性がある.孔 食発生は確率過程を含んだ現象であることから,小面積 の電極上の rmaxは,より面積の大きい対象領域全体での 最大食孔深さ r’ maxよりも常に小さい.つまり,rpit > rmax であっても,装置全体では rpitを上回る r’ maxが生じてい る可能性がある. 炭素鋼や銅などの準耐食性材料を用いた装置では,進 展性食孔の最大深さを,極値統計法を用いて推定する管 理手法が広く用いられている.4), 5)同手法では,装置の複 数個所で測定した rmaxを,仮定した極値分布上にプロッ トし,対象領域と測定個所の面積比(再帰時間 T)から, r’ maxを推定する.仮に,ステンレス鋼上に生成する準安 定食孔の半径が,準耐食性材料の進展性食孔と同じく極 値分布に従うならば,Fig. 1に示すような同面積の複数 のプローブ電極を用いて電位ノイズ測定をおこうことに より,モニタリング対象全体での r’ maxを推定できる可能 性がある.つまり,電位ノイズの測定結果から計算され た各電極上での rmaxを,仮定した極値分布の確率紙にプ ロットすれば,電極面積と対象全体との面積比の Tから, 対象全体での r’ maxが推定できる. 上記のモニタリング法を適用するには,まず,小面積 試験片上での rmaxが,進展性食孔の場合 4), 5)と同じく, 極値分布に従っていることを確認しなければならない. 本研究では,塩化物水溶液に浸漬された小面積のステン レス鋼試験片上に形成した準安定食孔の rmaxを,電位ノ イズの測定・解析により求め,それが極値分布に従うか 否かを検討した.基礎的検討を目的としたため,Fig. 1 のモニタリングシステムのようにチャンネルスキャナを用 電位ノイズ法で推定した準安定食孔深さの極値分布 井 上 博 之 守 屋 力 西 村 六 郎

Extreme-Value Distribution of the Metastable-Pit Depth Estimated by Potential Noise Method