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熱帯・亜熱帯沿岸域には,マングローブ,海草藻場, サンゴ礁から成る複合的な生態系が形成されており,こ れらは魚類の生息地提供(Verweijら,2006)や有機物や 栄養塩等の物質交換(Kathiresan and Nabeel,2011)の観 点から互いに深く関連しあうと考えられてきた.複数の 生態系がこのように隣接して存在することは,生物相の 多様性に貢献するだけでなく,津波や波浪等の軽減にも 役立つと報告されている(Kathiresan and Rajendran, 2005). このような複合生態系に関する研究例としては,マン グローブ河川からサンゴ礁リーフ海域間の流動特性と水 温変動を解析した例(田村・灘岡,2005)や,マングロ ーブ河口からサンゴ礁に至るトランセクト上で植物プラ ンクトンの生産性やDO,POC,TOCについて現地調査 を行った例(Nabeel and Kathiresan,2012)があり,マン グローブを起源とする有機物の存在が隣接生態系の一次 生産に大きく寄与することが示唆されている.一方海草 藻場に関しては,実験室内にて海草アマモの栄養塩吸 収・溶出特性を調べた研究(井上ら,2002)や,海草葉 内のδC,δNを調査した例(Yamamuro,2005)がある. マングローブから海草藻場,サンゴ礁の各生態系におけ る特徴把握,ならびに近接する生態系間での物質交換・ 相互関係は意欲的に研究が進められてきたが,現場にお ける流動と水質,特に栄養塩に関する見識はいまだ不足 しているのが現状である.またマングローブ河川は,降 雨時の土砂流出を緩和し,溶存態栄養塩を沿岸域へ供給 する機能を持つことが示唆されており(寺田ら,2007), 本来貧栄養である亜熱帯海域において,マングローブ河 川起源の窒素およびリン等の栄養塩は,海草藻場にとっ て貴重な栄養源であるはずだが,どの栄養塩がどこまで 流出し,どの程度の濃度を保っているのか,その実態は 不明な点が多い.そこで本研究ではマングローブ河口か ら海草藻場にいたる広域において詳細な現地観測を行う ことにより,マングローブ-海草藻場間での水質変動を 把握することを目的とした.

Spatial and Temporal Distribution of Nutrients from Mangrove River Mouth to Seagrass Bed