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117 歯の外傷は,破折と振盪,側方脱臼(転位),陥入, 挺出,完全脱臼等を含めた脱臼に大別され,受傷様式 に応じて初期治療方法も異なる.永久歯の外傷に関し ては,歯冠破折および歯根破折が約半数を占め,転位, 陥入,挺出,完全脱臼は 1 割程度であるが,その約半 数で整復固定や再植が行われるため,治療の過程が より複雑で時間を要することも多い.また患者の問診 時に過去に歯の外傷の既往を聴取した時,補綴治療に おいてどのような考慮が必要か,という疑問も生じて くる.外傷を受傷する歯は圧倒的に上顎の切歯が多く, 特に中切歯の受傷頻度は高く,永久歯では全受傷歯の 75%を占めるとの報告もある.Andreasen らの 151 人を対象とした調査報告によると,陥入歯において 1 歯のみの受傷は 46.3%,2 歯が 32.4%,3 歯以上の 受傷は 21.3%であり,一人の患者は複数の歯を同時に 受傷することが多い.すなわち,完全脱臼や歯根破折 などにより抜歯に至った場合には,審美性が求められ る前歯部の欠損補綴であることが多く,さらに,支台 歯や鈎歯となる隣在歯も破折に対する治療や脱臼等に 対して固定を施行している症例も多い.一般臨床医に おいては,患者や家族への外傷歯の予後や経過,補綴 治療の説明にあたり,根拠となり得る情報の提供が必 要とされている. 2013年に外傷により脱臼を生じた永久歯の前歯に対 する治療内容が予後に及ぼす影響に関して,Cochrane Collaboration(コクラン共同計画)による EBM に基 づいたシステマティック・レビューの作成の試みがな された.このレビューでは,脱臼歯に対する抗菌薬 の投与の有無,固定期間と固定方法,再植の方法(徒 手的,矯正的,外科的),根管貼付剤の種類を介入事項 とし,歯髄の保存,歯の保存,機能(咀嚼,発音),疼痛, 歯周組織の治癒,動揺を Primary outcomes,コスト(治 療費,治療に要する経費,治療時間,診療回数,患者 の仕事/学校の休業時間),患者の満足度等,QOL を Secondary outcomes として,文献検索を施行してい る.しかし,RCT や RCT に準じる臨床論文のみが対 象となるコクランの高度の基準に見合う論文を収集す ることができず,EBM に基づいた結果は得ることがで きない,と結論付けている.現実的には脱臼歯の再植, 固定等の治療と長期予後に関する研究に RCT を求め ることは倫理的に困難であると思われ,症例集積報告 や専門家の経験・意見に情報を求めることになる.一 方で今回渉猟し得た限りでは,外傷歯の長期予後に関 する報告は多くはなく,さらに日本人を対象とした報 告は海外誌および和文誌においてもほとんど得ること ができなかった.これは,日常診療において,外傷受 傷直後の歯の初期治療を行う機会があっても,その歯 の予後を同じ歯科医師が長期に追跡できる機会は少な く,また過去に外傷の既往のある歯の治療を行う場合 にも,急性期になされた初期治療に関する情報を有し ていないことが一因と考えられる. このような経緯を踏まえ,シリーズ・補綴装置およ び歯の延命のために Part 2 は,外傷の受傷の既往が ある永久歯(破折歯に関しては Part 1 に譲る)が絡ん だ補綴治療を想定し,有用な情報を総合的に提供する 事を目的とした.外傷というアクシデントを乗り越え 保存に至った歯は,長期間にわたり良好に機能するこ とにより,真に良好な結果が得られたといえる.今回, 経験豊富な先生方に急性期に行われる標準的な治療方 法,受傷歯の長期経過について,補綴治療における留

Treatment and clinical outcomes of traumatized luxated teeth