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水やりを忘れて花壇や鉢植えの植物を萎れさせてし まった経験は,植物科学者でなくても誰しもあるので はないか.一方で,「ど根性植物」と紹介される舗装 路の僅かな隙間からアスファルトを歪めて生える植物 を直接目にしたりすることも少なくないだろう.これ らは植物の弱さや強さを実感する対照的な光景である が,どちらも水を吸収して体積を増大させる植物の成 長のしくみと関係している.細胞外の水は細胞内外に 生じる浸透圧により水ポテンシャルの低い細胞内へ流 れようとする.このとき,植物細胞には物理的強度の ある細胞壁が存在し,これが応力(壁圧)として働き 吸水を妨げる.一方,壁圧と絶対値が等しく向きが逆 の圧力(細胞膜が細胞壁を外側に押し広げる細胞内 圧)は膨圧と呼ばれ,茎を直立させ葉を支える水力学 的骨格として働く.その圧力は,プレッシャープロー ブ法を中心とした測定法により,約 0.3メガパスカル から高いものでは 1メガパスカルを超え,車のタイヤ の圧力(約 0.2メガパスカル)をはるかに上回ること が知られている .植物細胞が水を吸って体積を増大 させるためには,細胞内の浸透圧がさらに上昇するこ と,細胞壁にゆるみが生じること,あるいはその両方 が必要であり,浸透圧調節と細胞壁の強度調節の調和 が非常に重要である. 植物体を構成する細胞の多くは,それぞれの器官, 組織の細胞極性に基づいて,分散成長と呼ばれる成長 様式で伸長する.一方,細胞が全体的に伸長する分散 成長とは異なり,神経細胞の軸索伸長,あるいは糸状 菌の菌糸伸長のように,細胞のごく一部が伸長する先 端成長細胞が植物にも存在する.被子植物の雄性配偶 子である花粉管,土壌中の水や栄養分を吸収して植物 体に万遍なく行き渡らせる根毛,コケ植物蘚類の胞子 発芽直後の原糸体の頂端細胞などが,先端成長する細 胞の典型例である.膨圧は細胞内で均一にかかる静水 圧として働くため,先端成長は局所的なエキソサイ トーシスと局所的な細胞壁成分の再編を伴う細胞壁伸 展が必須であると考えられている.実際,花粉管の伸 長領域となる先端部は細胞壁構成成分や蓄積量が他の 部位とは異なり ,CFM(cellular force microscope)な どを用いた計測技術により柔軟性も高いことが知られ てきた .先端部の柔軟な力学的特性は,自然界で 先端成長する細胞が狭い空間に遭遇する場面,すなわ ち,花粉管が雌組織の狭空間を伸長する時,あるいは 根毛が土壌粒子の隙間を伸長する時などにも重要であ ると考えられる.しかし,実際に複雑に入り組んだ組 織内や土壌中で,細胞が物理的障壁に衝突する様子を 生きたまま可視化するのは現在の観察技術では難し く,先端成長する細胞がどのくらい狭い隙間を通り抜 けることができるのかは評価できなかった. これまで筆者らは,植物が受精し種子をつくる上で 重要な花粉管が雌性配偶体に誘引される花粉管ガイダ ンス機構を PDMS(ポリジメチルシロキサン)製のマ イクロ流体デバイスを用いて解析してきた .その 研究過程で,最小で 1マイクロメートルの隙間のマイ クロ流体デバイスを作製し,先端成長細胞の機械的性 質を可視化する手法を開発した(図 1) .この手 法により,先端成長する細胞が細胞径より極端に狭い 1マイクロメートルの隙間であっても先端部分を変形 させて通り抜けることができることを見出した.本研 究は,浸透圧差による高い吸水力に対して局所的に低 い応力を維持して伸長する先端成長細胞の柔軟な力学 的特性を浮き彫りにするものである. 2. 先端成長細胞を狭小のスリットに誘導する マイクロ流体デバイスの作製 先端成長する細胞が自身の細胞径よりも狭い領域に 生物物理 58(5),258-260(2018) DOI: 10.2142/biophys.58.258 受理日:2018年 8月 1日

Mechano-properties of Tip-growing Plant Cells Analyzed by Microfluidic Devices