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生命科学者にとって最大の関心事は,今も昔も,生 体内や細胞内の「どこで」「いつ」「何が」「どれくらい」 起こっているかである.この疑問に答えるため,人類 は「イメージング」という観察・解析手法を古くから 用いてきた.たとえば中国では宋の時代に,火薬や羅 針盤だけではなく,解剖図なるものが発明され,生命 科学の大きな疑問にイメージングで答えようとした. 17世紀以降は顕微鏡の性能が飛躍的に向上し,更に 19世紀以降に染色技術が発達すると,細胞サイズで のイメージングも行えるようになった.20世紀以降 はオルガネラサイズから分子サイズの蛍光イメージン グ技術が進歩し,更にビデオイメージングや超解像イ メージング,深部観察などの技術革新によって「どこ で」「いつ」という生命科学者の飽くなき探究心を満 たし続けてきた. ところが,イメージングを使って研究を進めると, 私たちは必ずと言っていいほど巨大な壁に突き当た る.「で,結局何が起こっているんだ?」と.実際,最 近になってようやく,観たい現象や観たい物理量のみ を画像化できる様々な分子プローブが開発され始めて いる.だが「どれくらい起こっているか?」という疑 問の根は更に深い.既存のイメージング技術を使う限 り,運良く大きい/小さい,高い/低いといった粗い 見積りができたとしても,位置以外の物理量について 「~ケルビン」「~ミリボルト」「~ピコニュートン」な どの具体的な値を示すことはほとんど不可能である. この数年,量子センサーと光イメージングを組み合 わせた新しい計測手法が密かに注目され始めている. ...量子センサー?私たち生命科学者には耳慣れない言 葉である.一体何者だろう.量子センサーとは,難し いことは抜きにして言えば,「量子現象」を介して温 度,電場,磁場,圧力といった様々な物理量を私たち に与えてくれる万能センサーである.これまで私たち は,観たい現象に合わせてプローブの化学特性を設計 し,場合によっては FRETやスプリット GFPなどを 駆使してようやく計測したい物理量を「ザックリと」 見積もることができるに過ぎなかった.しかし量子セ ンサーを使えば,そんなことをせずとも,あたかも細 胞に分子サイズの温度計や電圧計を取り付けるかのご とく,知りたい物理量を直接計測できる.多少大げさ に言えば,そういったものである. この量子センシング技術が生命科学者にとって手の 届くものとなったのは 1997年,実は 20年も前の話で ある.今もこの分野を牽引するWrachtrupのグループ は,この年,高感度のレーザー共焦点蛍光顕微鏡を用 いることで,ダイヤモンド窒素―空孔中心(NitrogenVacancy center;NV中心)の量子現象が常温・常圧で観 測可能であることを証明した .それ以前は,量子セ ンサーと言えば極低温など極端な条件でなければ使い 物にならない,というのがほとんど常識となってい た.しかし,彼らの報告以降は生命が生存可能な環境 で量子センサーが使えるようになり,これ以降,生命 応用への道が一気に拓けたのである.

Optically Detected Magnetic Resonance Microscopy Using Nanodiamond Sensors: Novel <i>in vivo</i> Imaging Techniques