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共感的感情反応は,「他者の感情状態に対して,観察者に 生起した適切なかたちの感情反応」と定義され(櫻井他, 2011),例えば不安を感じている他者を見た時に,自分自 身も同様の感情を抱くことを指す。共感性は認知的側面と 感情的側面に分類されるが,特に感情的側面が対人行動に 影響を及ぼすと仮定されることがある(植村他,2008)。 この共感性の感情的側面が共感的感情反応である。 共感的感情反応を扱った従来の研究では,他者のネガティ ブ感情への共感的感情反応を扱ったものが多かったが,ポ ジティブ感情への共感的感情反応も存在する。そこで葉山 他(2008)は,ポジティブ感情への共感的感情反応も測定 できる尺度を作成した。その際,他者のポジティブ感情に 対して共感するのか,ネガティブ感情に対して共感するの かという軸と,相手と同じ感情を抱くのか(共有),あるい は他者志向的反応を抱くのか(好感,同情;例えば,悲し んでいる人を見た時に,同じ「悲しみ」という感情を抱くの ではなく,相手が「かわいそうになる」)という軸に基づき, 共感的感情反応をポジティブな感情の共有,ポジティブな 感情への好感,ネガティブな感情の共有,ネガティブな感 情への同情という4つに分類した。植村他(2008)は,他者 の感情の共有が生じた後に,他者志向的反応(つまり,ポ ジティブな感情への好感,ないしネガティブな感情への同 情)が生じ,その結果対人行動に影響が生じると仮定した。 櫻井他(2011)は上記の共感的感情反応の4側面を含む 共感的感情反応尺度を作成し,その項目を対象に探索的因 子分析を行った。しかし,葉山他(2008)の想定とは異なり, ポジティブな感情の共有とポジティブな感情への好感は同 一の因子を形成し,ポジティブな感情への好感・共有と命 名された。このことから,共感的感情反応の構造・分類に ついては再検討の余地がある。 櫻井他(2011)は,ポジティブな感情の共有とポジティ ブな感情への好感の項目が同一の因子を構成した理由とし て,調査対象者がこの2側面の項目内容を区別できなかった 可能性を指摘している。例えば,ポジティブな感情への好 感の項目として「嬉しそうな人を見ると,暖かい気持ちにな る」などが用いられているが,調査対象者がこれらとポジ ティブな感情の共有の項目とを区別できなかったということ である。そのため,この2側面の項目を修正する必要性につ いて言及している。しかし,櫻井他(2011)では探索的因 子分析によって因子の抽出がなされており,葉山他(2008) が提案した,4つの共感的感情反応を仮定した4因子モデル と,ポジティブな感情の共有とポジティブな感情への好感 を同一の因子であると仮定した3因子モデルのうち,どちら の方がデータに適合しているのかについて比較がなされて いない。そのため,共感的感情反応尺度については確認的 因子分析を用いて因子構造の再検討を行う必要があると考 えられる。そこで本研究では,共感的感情反応尺度の項目 内容については修正を行わず,櫻井他(2011)が作成した 項目をそのまま用いたうえで,確認的因子分析により,その 因子構造の再検討を行うことを1つ目の目的とする。 また,櫻井他(2011)では,すべての共感的感情反応と 向社会的行動に正の関連が,ポジティブな感情への好感・ 共有と攻撃行動に負の関連が認められた。そのため,共感 的感情反応は対人行動と関連し,また,ポジティブ感情へ の共感的感情反応とネガティブ感情への共感的感情反応の 機能には差があることが示唆された。しかし,櫻井他 (2011)が見出した共感的感情反応と対人行動の関連は, 共感的感情反応と関連する「普段経験されている感情」の 影響によって生じた擬似相関である可能性がある。つまり, ポジティブ感情への共感的感情反応を抱きやすい者は,自 身も普段ポジティブ感情を経験しやすいと考えられるが, その感情が対人行動に影響を与えている可能性がある。そ のため,本研究では普段経験されているポジティブ感情と ネガティブ感情の影響を統制したうえでも,櫻井他(2011) が見出したように,共感的感情反応の各側面が対人行動と 関連するのか検討することを2つ目の目的とする。

pasonariti kenkyuu

Relationship of Empathetic-Affective Responses with Prosocial Behaviors and Aggressive Behaviors after Controlling for Affect Experienced in Daily Life