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私たちが心的活動を含む広義の行動をするときは,常に 「自分で行動をしている」という感覚(セルフエージェン シー感)を伴っているが,これは外界から自己を独立させ, 主体的なパーソナリティを形成するのに重要である (Gallagher, 2000). モーターコマンド理論によれば,私たちが行動をすると きにはインターナルモデルというシステムの中で,フォワー ドモデル(次の状態を予想する)とインバースモデル(目 標の状態になるのに必要な指令を推定する)が相互補完的 に働いているという.特にフォワードモデルはセルフエー ジェンシー感の生起にも関わっていると説明されている. フォワードモデルは「結果の予想」をするが,それと知覚 された「実際の結果」が照合され,食い違わない場合に, セルフエージェンシー感が生起されると考えられている (Blakemore, Wolpert & Frith, 2002; Wolpert, 1997). セルフエージェンシー感の先行研究として,自分の手や ジョイスティックの動きに対してフィードバックを返し,自 分の行動かどうか判断させたものがあるが,これらの結果 はモーターコマンド理論による解釈が可能である (Daprati, Franck, Georgieff, Proust, Pacherie, Dalery & Jeannerod, 1997; Nielsen, 1963). これらの研究は,「自分の動き」がそのまま「動き」とし て視覚にフィードバックされる場合を検討したものであり, 身体運動に関するセルフエージェンシー感を扱ったと考え ることができる.それを発展させ,聴覚的なフィードバッ クに対して検討したものに Sato & Yasuda (2005) がある.こ の研究では,キー押しによって音が鳴る,という仕組みを 用いて,学習したのと同じ音が鳴らない場合は,その音を 「自分で鳴らした」とは感じなくなることを示した.「自分 の動き」が「音」で返ってくる場合で検討したこの知見は, 身体運動に限定されていたセルフエージェンシー感の生起 メカニズム理論を心的活動一般へ応用できる可能性を示唆 したものである.「動き」と「音」は直接的な関係がないに も関わらず,それを関連付けて自分の行動であったと判断 するためには,より高次な心機能を必要としており,それ が自己の主体性につながっている可能性を示唆した研究で あったと言える.実際に,セルフエージェンシー感を正常 に生起できずに主体的なパーソナリティが形成できないと, 統合失調症や解離障害になる可能性があると言われている (Frith, Blakemore & Wolpert, 2000; Sato & Yasuda, 2005). しかし Sato & Yasuda (2005) は,右手と左手で別の音を学 習させたため(例えば右手では 1000 Hz,左手では 600 Hz), セルフエージェンシー感が生起されなかったのは「予想(右 手でのキー押しでは 1000 Hzの音が鳴るだろう)と異なる結 果(600 Hzの音が鳴った)が返ってきたため」ではなくて, 「他の操作によって鳴るべき音が鳴ったから(本来左手での キー押しで鳴るべき音が鳴ったから)」であったとの解釈も 可能である.つまり「鳴らしていない」と判断できる他の 可能性が用意されていたと考えることができる. 本研究では,これを精緻化するために,右手のみを使っ て学習あり条件となし条件を比べた.この方法だと鳴る音 は常に自分の右手のキー押しによるもので,他の解釈は用 意されていない.このような状況下でも,学習によって形 成された「結果の予想」と「実際の結果」が異なる場合は セルフエージェンシー感を生起しなくなるかどうか検討し た.

The Relationship between Auditory Feedback and the Sense of Self-agency: An Examination on the Theory of Motor Commands