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カイコは 6000 年にわたる養蚕業の歴史の中で飼 育方法が確立されてきた昆虫である.今日では様々 なカイコの純系品種が確立されている.カイコは 6 週間という短時間で卵から 5 令幼虫,さなぎの段階 を経て蛾になる.小学校のときにカイコを飼ってみ た経験を持っている方も大勢おられると思う.飼育 が容易であることを利用してこれまで様々な研究に カイコは使われてきた.私たちはカイコを使った創 薬を,「カイコ創薬」として提案したい.しかしな がら,カイコを創薬に利用しようという試みは意外 なほどなされておらず,「カイコ創薬」の研究は端 緒についたばかりである. 従来の創薬研究では,多くの場合マウスなどの哺 乳動物が使われてきた.しかしながら,多数の哺乳 動物を医薬品候補化合物の試験に供することは,コ ストばかりでなく,動物愛護の視点から問題である とされるようになり,医薬品開発を妨げるほどに なっている.これらの問題を解決するために,ショ ウジョウバエや線虫などの無脊椎動物の利用が提案 されている.これらの動物を使う場合問題となるの は,大きさが極めて小さいことである.そのため, 液体サンプルの注射や,解剖して臓器を取り出すこ とは容易でない.これに対してカイコは比較的大型 であり,注射実験が可能であるばかりでなく,大量 の血液や臓器サンプルを得ることができる. 従来カイコにおいては,遺伝子操作が難しいとさ れてきた.この点は,ショウジョウバエや線虫と比 べたときのカイコの実験動物としての欠点となって いた.生物資源研究所の田村,瀬筒らのグループ は,トランスジェニックカイコの作出方法を確立 し,この問題の解決に大きく貢献した.今後遺伝子 改変カイコは,「カイコ創薬」の進展に大いに役に 立つと期待される. カイコはマユを作るためにフィブロインという 1 つのタンパク質を大量に生産する能力を有してい る.これを生かしてカイコはリコンビナントタンパ ク質の生産工場として使われる.カイコにおけるタ ンパク質の糖鎖修飾がヒトを含めた哺乳動物と共通 している点があり,リコンビナントタンパク質を実 際の医療への利用する場合のメリットとなる.また カイコは,感染症など様々な病態モデルを構築する ことが可能であり,抗生物質などの医薬品の候補化 合物の評価動物として使うことができる.この Yakugaku Zasshi 誌上シンポジウムでは,遺伝子組 換えカイコ作出,1) リコンビナントタンパク質の生 産,2,3) 並びに,カイコ病態モデル4)を用いた研究に 関して世界の一線で展開されている先生方に執筆を お願いした.この誌上シンポジウムが読者諸氏の 「カイコ創薬」に対する理解を深める上に役立つこ とを願ってやまない.

Platform Development for Drug Discovery Utilizing Silkworm towards “Novel Industrial Revolution”